KK004
cat#
KK004
title:
Enzo/Further
artist:
Boca Raton
time:
34’57"
format:
CD

tracklist

1.
Enzo
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Enzo
3.
Enzo
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Enzo
mp3
5.
Enzo
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Enzo
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Enzo
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Enzo
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Enzo
11.
Further
mp3

Text by Martijn Tellinga / Boca Raton

Enzo / Further はスプリット作品であり、Enzo はコンポジションにおけるいくつものアイデアを提示する多くの短い楽曲から成り、 Enzo によって提供されたベーシックな素材と重複する結果が Further です。Further はこれらの実験を結合し、一つの総体へ融合するものです。さまざまな音楽のステージを経ることで球状の感覚をもたらし、魅力ある音響混合物を生み出すのです。Enzo / Furthur は、いくつかのCD-R作品、コンピレーションへの参加、そして7インチ作品のリリースなどの冒険を経た Boca Raton のCDフォーマットでのファースト・アルバムです。

Martijn Tellinga / Boca Raton interview (interviewed by Hideho Takemasa)


1. あなたのバックグラウンド(音楽やアートなど)について教えてください。Boca Raton としての活動はどのように始まり、何があなたをこのようなユニークな創作へと向かわせているのですか?

私のバックグラウンドは基本的に独学によるものであり、音楽と音の魅力について徐々に専門的な関心を持つようになりました。2年前からはThe Hague Royal Conservatoryでソノロジーの研究をしています。私はこれまで他のアーティストとの共同作業を主にやってきたので、Boca Raton が私にとって名前の付いた初めてのソロ・プロジェクトになります。Boca Raton は固定されたものでなく(おそらく代りに本名を使うべきかもしれない・・)、私の嗜好や知識やアーティスティックな目標に従って発展していくものです。「興味深い音楽」という考え方を除けば、このプロジェクトにとって先行するコンセプトはありません。作曲家/音楽家としてやってきたので、何らかの特定の音を作り出すことに腐心してそれを繰り返すことよりも、形式や作業メソッドやテーマについて考える傾向が強く、それらを出発点に使います。ごく最近取り組んでいる作品はどんどん大きなものになってきています。私は自分の作品が個人的な音楽表現としてでなく、むしろ独立した音響作品として捉えられることを望んでいるのですが、これこそ私が豊かさと強い満足を得られる唯一の発展なのです。

2. では、あなたの作品における形式、作業メソッド、テーマ、そしてそれらの関係について説明していただけますか。

私の制作にとって、形式とは楽曲のとりうる範囲の限界を決定する明確な「規則」のまとまりであるとほぼ説明することができます。これらはまさにシンセシスにおけるさまざまなパラメーターの小数点以下の数字のことですが、より抽象的なものも含みます。 楽章を例に挙げて説明すると、すべてのパートにおいて、私は時間軸における音楽的表現の長さに明確な線引きを行います。これらのパートには互いにアルゴリズミックな関係、もしくはまた別の関係がありますが、単純にその時の自分の考え次第ということもあります。 なぜ今それを作っているのか?面白く聴こえるからだろうか?というところが重要で、ちょっと考えてみれば、それだけでは自分にとってもの足りないということに気が.付きます。 私は制限の内側で作業する傾向が強いのですが、そうすることで自分の作品が新しい特質を獲得するからです。そうして得られたものは、志向と動機を欠いたままうまく拵えられた単なる音の集合以上のものです。形式と作業メソッドについて考えることは、素材や要素について制限のある中でどのようにすれば目標を達成できるかと自然に考えることになります。それは表現に多くのものをもたらし、さらには、作品に「表情」、動機の発露、選択の可能性等々を与えてくれるのです。 現在「ソニフィケーション」(音楽以外の要素を音楽のパラメーターに移し換える音響表現)という考え方に基づいた一連のテープ作品に取り組んでいるのですが、私はそれを作曲構造に持ち込みました。ソノロジー学部の修士課程でのこれからの2年間を通じてこの作品に取り組むつもりです。 形式についての別の良い例が、私が目下制作中の、モールス符号を使ったサウンド・インスタレーションです。それ固有の音が使われていますが、同時にその作品は非常に詩的な価値を備えたものでもあると信じています。音楽の要素として扱うことは難しいですが、とても興味深いものです。音楽が人に何を聴くべきかを示しているのです。 自身のパーソナルな表現を越えた何かを作ることを目指し、個人的な嗜好の領域の外に存在する何かを作り出すことこそが重要だと私は思うのです。

3. 本作 Enzo / Further と他の作品との違いを説明してください。また、クレジットにモロッコとありますが、そこでどのような刺激を受けたのでしょうか?

Enzo / Further はまさにひとつのジグソーパズルです、始めに11トラックの内の固定されていないパートである短いトラック群が紹介され、より緩やかに変化するロング・ピース Further は、それら全てを要素として使って再構築されています。制作時は主にマイク録音の作業をしていたのですが、それらを橋渡しすべく電子音をどんどん追加していきました。実はほとんど一種の音の面白さのために極めておおまかに両者を扱ったんですよ。 このアルバムを作っていた時にモロッコを訪れたのですが、そこは魅力的でミステリアスな土地でした。気軽な休暇旅行ではなかったのですが、私はとても気に入りました。そこで美しいフィールド・レコーディングをして、それはここであなたが聴くことのできる音(加工されたものも、そのままのものもあります)の多くの部分になっています。モロッコはオープンでラフ、いいところがたくさんある国でした。この作品を完成させた後、そこにある雰囲気を聴き返すことができました。サハラ砂漠の音はまさに音楽にうってつけで、実際に私は、フィンランド人アーティスト兼ジャーナリスト Sami Kallinen の短編映画 The Fall のサウンドトラックのために、フィルターをかけた砂漠の風の音を使ったんですよ。

4. ライブ・パフォーマンスを頻繁にやっていますね。ライブ会場でオーディエンスを前にしてプレイすることはどういったところがチャレンジングですか?また、なぜ、どうやって4チャンネルやもっと多くのチャンネル数の環境でライブをするのですか?

集中力が必要な、またはゆるやかに変化するようなとても静かな曲でオーディエンスを惹きつけるところです。集中力を持続して静かな状態にある大勢のオーディエンスの前でプレイすることは、自分のライブをきちんと評価しようと努力してくれているという実感があるので非常にやりがいがあります。それから当然のことですが、ハイクオリティーなサウンド・システムを使ってプレイでき、ある空間の影響を音楽に聴き取れることは素晴らしいことです。もちろんそれとは正反対のことがしばしば起こるわけですが・・。 電子音楽はステレオ・セッティングに安易に嵌りこんでしまっているのではないかと私は感じていて、それが4チャンネル(もしくはそれ以上のチャンネル数)を使ったパフォーマンスの実験を始めた理由です。それはまさに環境をオープンにするもので、音の持つ空間性を付加するものです。加えて、作曲という意味でより多くのさらなる可能性を与えてくれる物でもあります。マルチ・チャンネルのセッティングでは、音のあり方と動き方はまったく違ったものになるので、それを頭に入れてから作曲し、実行しなければならない。ステレオ・システムでは、よく行われているような(デタラメな)パニングによって大抵の場合十分な「ステレオ感」を得ることができますが、より多くのチャンネルを相手にする際は考えが必要です。それは私自身の音楽とライブにとって非常に重要な要素になっています。より多くの可能性がある場合は台無しになってしまいがちなので、全体を観察してシンプルさを保つことは難しいことです。

5. The Royal Conservatory での活動があなたにどういった影響を与えているか説明してもらえますか?最後にBoca Raton のこれからの予定はどうなっていますか?

The Royal Conservatoryはとても刺激的な場所で、共に何かをできる多くの人々と知り合うことができました。電子音楽の歴史を学ぶことは私にとって非常に実りの多いものであることが分かり、また同時にオブジェクト指向のソフトウェア環境でのプログラミングの習得と、アルゴリズミック・コンポジションの導入は、そこで学んだことからのダイレクトな成果です。ソノロジー学部には豊かな歴史があり、多くのとても興味深い作曲家がこれまで活動してきましたし、いまも活動しています。 この先たくさんの予定があります。来たる年にはパリ、アテネ、リスボンでのライブ・パフォーマンスが予定されています。そしてうまくいけば2005年の6月には日本での短期間のライブ・ツアーが控えています。目下NIAFのアニメーションのためのサウンドトラックを仕上げているところです。スーパーマーケットその他の日常の都市空間で任意に行った録音を使い、モールス符号で構成したサウンド・インスタレーションを近々やります。これはオランダ人アーティストJan Robert Leegte (http://works.leegte.org) との共作になる予定です。さらに、Radboud Mens (http://www.radiantslab.com/rat/) とDanny de Graan (http://www.dannydegraan.nl/) の2人のオランダ人作曲家と一緒に風船楽器の開発も行っています。この夏にアムステルダムにあるSTEIMのスタジオでそのプロジェクトを発表する予定です。